道外れの人生(改)

【癌の発覚】
P店は毎月特定日に大花火に設定6が

入るので、私はイベントになるとTを誘って

開店2時間前から並ぶ。

設定6が入るのは前日最もビッグ回数が

少ない台が多く、それが朝一で設定変更の跡が

あれば、かなりの確率でツモれるというわけだ。


で、Tとは一緒に並んだりはするものの

特に乗り打ちすることもなく、あくまでピン。
※期待値が下がるという理由で、私は
昔から乗り打ちが嫌い。


とは言え、やはり優良店で甘い時代だった

ということもあって、二人共連日連勝。


そして閉店まで打ち、稼働が終わると

二人で近くの居酒屋で祝杯を挙げて

翌日もP店に並ぶ。

その毎日を繰り返していた。


・・・ところが、P店をネグラにしてから

数か月経った頃からTがよく咳をするように

なった。

最初は気にしていなかったが、日に日に

苦しそうに咳をする彼を見て、一度

病院に行った方がいいのではないかと

勧めてみた。

が、彼はこう言う。


「病気になったらそれまでよ。
俺たちスロプロは今日楽しかったら
それでいいんだよ。」


酒の席で彼は私の忠告を無視して

ハイボールを胃に流し込む。

私も当時は若かったこともあり

まあ何とかなるなど言いながら

無責任にも彼にガンガン酒を飲ませていた。


・・・が、それから癌が発覚したのは

すぐのことだった。

ある日、彼がP店で稼働中、突然足が痛いと

言い出して歩けないような状態だったので

そのまま病院に連れて行った。

医者に診てもらうと、どうやら関節の部分に

水が溜まっているとのことだったので

それを抜いてもらう。

するとTの症状は一瞬は良くなったのだが

数日後にまた痛み出してしまい、水を抜いても

症状が改善されないことから、強制的に

入院することになったのだ。




・・・検査をしたところ末期の肺がんだった

という。

体の他の部分にも転移していたのである。

20代での癌は進行がとにかく早い。


「こういうことがあるから今を楽しまないと
後悔するぞ。」


彼の最後の電話以来、私は

金を貯めることよりも使うことを優先し

それ以来Tと連絡を取ることを止めた。


そして2002年春。

彼は天国へ旅立った。

知り合ってたった3年程度の短い付き合いだったが

あまりにもあっけなかった。


・・・あれから18年が経ち、私の母親も

同じように肺がんになってしまった。

記事冒頭の「とあること」とはこのことである。

高齢なため、これも運命だと言えば

仕方がないが、癌は遺伝する。

不摂生な生活をして、きっと私も同じような

運命を辿るのかもしれない。

そして親父にこのことを伝えられた時

ふとTを思い出した。




彼がパチスロで一番好きだった

大花火の右上がり青7テンパイというリーチ目。

それをこの先私はゲームセンターでいつまで

拝めるのだろうか。

何年先、何十年先・・・

それはいつになるのかはわからないが

一つ言えることは何が起きても今を楽しむこと。

この判断は間違っているのかもしれない。

ただTが残したその言葉を、私は今も

ワンカップ片手に守っているのである。